天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
サファイアとルビーな気持ち
 こうして迎えた初めての展示会は、かなり華やかだった。

 ホテルの中規模会場の中では一番広い面積の部屋を使用し、テラスから中庭へも出入りができる。

 いかつい警備員さんがあちこちに立ってるけど、お蔭でずいぶん解放感が得られた。


 当然ながら、右も左も目に付くところの全部が宝石、宝石、宝石! 一面宝石の山!

 この世の全ての色彩が集められたような贅沢感!

 工夫を凝らした照明の下で宝石達が、いつにも増して美しく誇らしく輝いているように感じる。

 水晶で作られた大きなクジャクのオブジェまで飾ってあって、感心することしきり。


 見渡す限りが宝石なんて、こんな豪勢なことってない。

 もしも宝石に匂いがあったら、今頃酔ってフラフラになってしまっているだろう。


 でも陶然とばかりしていられない。あたしはお客じゃないんだから。

 ネームプレートを首から下げて、顔に笑顔を貼りつけながら必死になって受け付けの仕事に努めた。

 中の仕事は商談も兼ねているから、新人のあたしでは無理。

 だからといって受付なら簡単かというと、新人のあたしでは見知らぬお客様ばかりで、誰が誰やらまったく分からん!


 こら! ちゃんと芳名帳に記帳しろ! 招待状を置いて行け!

 代わりに書いといてー、とか言われても、あたしゃあんたの名前なんか知らないんだよ! 

 名前くらい自分で書け自分で! あ、さてはお前、毛筆使えないな!?


 そんな招待客がずいぶん多くて、気疲れしてしまった。

 中にはわざと「え? 俺だよ俺。五百蔵さんの店員が俺の顔を知らないわけないでしょ?」とかワザとからかってくるオヤジもいたりして。

 顔では笑いながら、墨をたっぷり含んだ筆ペンを投げつけてやろうかと本気で思った。
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