恋ごころトルク
厨房からジュージューという音が聞こえる。ナポリタンの美味しい音だ。容器は用意してあるから、あとはあがってくるのを待つだけ。
「あの」
「はい?」
「あたし、バイクの免許を取ろうと思っていて」
早口でそう言った。すると、光太郎さんは目を見開いて驚いた顔をし、次に嬉しそうにした。
「そうなんだ、それは良いですね」
「はい」
「好きなんですか? バイク」
「いえ、正直全然分からないんです。知識も無いんですけど」
「えーなんでまた……」
そりゃあそうだよ。分からないのになんで急に突然って話だよ。きっと友達や両親だって、そう言うに決まっている。
「昨日行った時に、バイク乗ってらして、とても……格好良くて、あのバイク」
光太郎さんも格好良かったって言えば良いのに。いや、照れるから。軽いと思われるから。
「自動車学校に、通う予定です」
来週の火曜日、お休みだから手続きしに行こうかなって思ってる。
「すごいね、がんばって」
ちょっと驚いてるような、でも笑顔でそう言ってくれた。はい、がんばるよあたし。
「どこに行くか決めたの?」
「あの、H自動車学校へ行こうかと……そこが一番近いから」
「あそこ混んでるだろうけど。あと時期的にこれから混むんだよね、自動車学校の二輪教習はどこも。でも乗れる時は続けて乗った方が良いよ。忘れるから」
さすがバイクショップの人だ。的確なアドバイスだ。分かってる。
「そうなんですね。くじけないで最後までがんばります」
えへへ。唐突に決めたことだけど、光太郎さんにアドバイス貰えただけで、もっとがんばろうって思える。単純だけどさ。
「乗るバイク、決めたの?」
そう聞かれると、なんて言って良いのか分からない。うーん……しいて言えば光太郎さんが乗っていたやつなんだけど……。
「いいえ、まだよく分からないので……」
もうちょっとよく調べてから。もっとバイクを知ってから。決めたいな。