恋ごころトルク
「こう言うのもなんだけど、うちのショップ、免許応援キャンペーンっていうのあって、免許取得でバイク価格のサービスあるから。良かったら相談して」

 商売だなぁとか思っちゃったけど、まぁ、商売だもんね。それはそれでバイクショップごとに色々考えるだろうね。

「そんなのあるんですね」

「あるのあるの。でも真白ちゃんなら、俺がんばって値引きして貰うよ」

 いやいや、光太郎さんがミナセに居る限り、あたしはそこでバイクを買うよ。他の店になんか行かないし、というか分からないから怖くて行けない。あなたを目指して行くしか無いのです。

「むしろ、色々教えて欲しいです」

 いまのところ、彼しか相談できる人が居ない。貴重な存在だ。あ、そうだ。そう言って光太郎さんは胸ポケットから四角い紙を出した。

「大体店に居ると思うけど、なにかあったら連絡ください。なんでも聞いて。名刺、俺の番号も書いてあるんで」

 え、うそ。こんなタイミングで番号ゲット。うそだろ、まじか。良いの? 教えて良いの? あたしに携帯番号教えて良いの? 後悔しないよね? べ、別になにもしないけど。

「う、お、ありがとうござま……」
「はい」

 名刺を受け取る手が震える。名刺には「霧谷 光太郎」と書いてあった。霧谷さんて言うんだ。光太郎さんじゃなくて、霧谷さんて呼んだ方が良いのかな。どうしようなんて呼ぼう。うそ、やだ動悸と共に息切れしてきた。

「もし店に来た時、みんな光太郎って呼ぶんで、それで呼び出して貰えば俺、行くんで」

「はい……ありがとうございます!」

 真白、今日のあんたとてもついてるし、恵まれている。こんな素敵な人と知り合えるなんて。(主に顔が)

「じゃあ、また来まーす。ナポリタン食うね」

「あ、はい! ありがとうございました!」


 長身の赤い背中を見送ると、光太郎さんと入れ替えで、さっき外でメニューを見ていたお客さんが入ってきた。

「いらっしゃいませ!」

 いつもより3割増の挨拶でお出迎えする。

 嬉しいな。二輪免許を取る決意をして、光太郎さんともちょっと近付けて。淡い恋心、小さな好意が大きくなりそう。ううん。大きくなりそうじゃなくて、もう大きくなってる。

 なんだか、中学生か高校生の頃の恋を思い出す。ねぇ、なんかこう、話せただけでも嬉しくて楽しくて、それだけで幸せだったよね。


 
< 18 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop