恋ごころトルク

 あんまりお蕎麦をすするのは得意じゃない。熱さに耐えながら、なんて大げさだけど、食べ終わって、最後に、付け合わせのお新香をかじり、ほうじ茶をぐっと飲む。

「ごちそうさま」

 外食をあまりしないから、自分で作ったもの以外、食べる機会が無い気がする。ひとり暮らしで自炊してれば、当たり前か。しかもお弁当屋勤務だし。

 食べ終わると急いで会計をして、また自転車に乗る。大忙しだわ、今日のあたし。(あと自転車くんも)


 自動車学校を通り過ぎ、青空の下、しばらく走ると、あの青い看板が見えてきた。

「光太郎さん、居るかなぁ」

 接客中とか、整備で忙しそうにしてたら声かけられないけれど。

 ミナセの前に到着した。邪魔にならないところに自転車を止め、バッグを斜めがけにする。お財布には……ヘルメットってどれぐらいの値段するんだろう。あまり高価なものは買えないけれど。

 ひと呼吸置いて、入口を入る。店頭の窓ガラスには色々なポスターやチラシが貼ってあった。セールの文字も見える。ショップのチラシ、貰って帰ろう。

「いらっしゃいませー」

 スタッフさんの声。今日は休日じゃないから、ショップにはあまりお客さんが居ないだろうと思っていたけれど、バイクに乗ってるような出で立ちの人達が数名居た。お天気良いしね。今日がお休みの人も居るんだろう。

 ヘルメットを見ようか……。どこにあるんだろう。先日来た時は、あまり店内をじっくり見なかったからな。奥にレディースコーナーがあったのは覚えている。

「……と」

 ああ、レジの人に聞いてみようか。自分1人じゃよく分からない。光太郎さん……呼んで貰おうかな。
 あたしはレジに向かう。1人のスタッフさんが、棚の上に手を伸ばしてお仕事中。またこの男性スタッフさんも背の高い人だなぁ。

「あの……すみません」
「はい、いらっしゃいませ」
「あの、光太郎さん……いらっしゃいませんか?」
「光太郎、あ、霧谷ですね」
「は、はい」
「少々お待ちください」

 そう言うとスタッフさんは、店の奥へと軽やかに走って行った。やっぱりここは長身でさわやかじゃないと就職できないのか……。

 レジの前にはキーホルダーなどがぶら下がるラック、洗車の洗剤、タオルなどが入ってるワゴンなど。普段カー用品店も行かないし、どれが何に必要なものなのか、さっぱりだ。

「あ、こんちわ!」

 後ろから声がした。光太郎さんの声だ。すぐ分かった。あたしは急いで振り向く。

「わーすみません……お仕事中に」

「いえいえ。今日、お店休み?」

「お店はやってますけど、あたしお休みの日なんです」

「そうなんすねー今日も行こうと思ってたんですよ」

 もう13時回るところだけど……忙しいのかな。

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