恋ごころトルク

「どうしたんですか? 今日は」

 そうだよね、いきなり来てね。

「あの、入校手続きしてきたんです。自動車学校の」

「ああ、バイクの?」

「はい」

 あたしは、書類の入った封筒を見せる。自動車学校の名前が印字されている茶封筒だ。

「わーすごいっすね。行動力あるなぁ」

「へへへ……」

 褒められちゃった。いつもの赤いつなぎの光太郎さんは、額にうっすら汗をかいていて、なにか重労働でもしてた感じだ。やっぱり忙しいよね。早く用事を済ませて帰ろう。

「忙しいですよね。すみません」

「いやいや、ちょっと立て込んでただけで、大丈夫ですよ」

 そんなの社交辞令だって分かってる。タイミング悪かったみたいだ。なんて、面倒くさいこと考えてないで用事を伝えろ。せっかく呼び出して貰ったんだから。

「すみません。ヘルメット買おうと思って来たんですけど、よく分からなくて」

「そうですか。ご案内しますよ」

 こっちへ、そう言って長い手足で移動する。なんかドキドキするなぁ。
 3段ラックにたくさんのヘルメットが並ぶコーナーに来た。おお、ヘルメットだ。当たり前だけど。

「色とか、どうします?」

「うーん……」

 そう言われると、これまたよく分からない。好きな色か。

「白とか」
「名前が真白さんだもんねー」
「ええー?」
「はは」

 なにこの会話。楽しいじゃないの。

 光太郎さんが笑いながら手にしたヘルメットは。白くて、ヘルメットをくるりと一周お花とツタのラインがあって、側面には少し大きめの花模様。可愛らしいものだった。

「これなんか女の子らしいし、UVカットシールドだし、いかがでしょう」

「可愛い。こんなのあるんですね。あたし本当によく分からなくて……」

「最初は誰でも分からないですって。もっとこれから分かるようになるし、必要な用具も用意しなくちゃいけないって分かってくるし。」

 確かにね。いきなりは分からない。色々勉強しなくちゃ。

「分からないことは聞くことですよ」

 そうだよね。分からないことを分からないままにしておくからいけないのだよ。光太郎さんも「なんでも聞いて」って言ってくれてることだし。

< 24 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop