恋ごころトルク
「どうしたんですか? 今日は」
そうだよね、いきなり来てね。
「あの、入校手続きしてきたんです。自動車学校の」
「ああ、バイクの?」
「はい」
あたしは、書類の入った封筒を見せる。自動車学校の名前が印字されている茶封筒だ。
「わーすごいっすね。行動力あるなぁ」
「へへへ……」
褒められちゃった。いつもの赤いつなぎの光太郎さんは、額にうっすら汗をかいていて、なにか重労働でもしてた感じだ。やっぱり忙しいよね。早く用事を済ませて帰ろう。
「忙しいですよね。すみません」
「いやいや、ちょっと立て込んでただけで、大丈夫ですよ」
そんなの社交辞令だって分かってる。タイミング悪かったみたいだ。なんて、面倒くさいこと考えてないで用事を伝えろ。せっかく呼び出して貰ったんだから。
「すみません。ヘルメット買おうと思って来たんですけど、よく分からなくて」
「そうですか。ご案内しますよ」
こっちへ、そう言って長い手足で移動する。なんかドキドキするなぁ。
3段ラックにたくさんのヘルメットが並ぶコーナーに来た。おお、ヘルメットだ。当たり前だけど。
「色とか、どうします?」
「うーん……」
そう言われると、これまたよく分からない。好きな色か。
「白とか」
「名前が真白さんだもんねー」
「ええー?」
「はは」
なにこの会話。楽しいじゃないの。
光太郎さんが笑いながら手にしたヘルメットは。白くて、ヘルメットをくるりと一周お花とツタのラインがあって、側面には少し大きめの花模様。可愛らしいものだった。
「これなんか女の子らしいし、UVカットシールドだし、いかがでしょう」
「可愛い。こんなのあるんですね。あたし本当によく分からなくて……」
「最初は誰でも分からないですって。もっとこれから分かるようになるし、必要な用具も用意しなくちゃいけないって分かってくるし。」
確かにね。いきなりは分からない。色々勉強しなくちゃ。
「分からないことは聞くことですよ」
そうだよね。分からないことを分からないままにしておくからいけないのだよ。光太郎さんも「なんでも聞いて」って言ってくれてることだし。