恋ごころトルク
それでだ……光太郎さんが持ってるヘルメット、とても可愛い。
「これ、おいくらでしょうか」
「ええと」
値札を見ると……23000円。た、高いな……。お財布のお金、全部使うじゃないか。さっき、入校費用も払ってきたし……痛い出費だなぁ。
「最初だし、もうちょっと軽いのにしましょうか」
あたしの顔色を見てか、ちょっと場所を移動する光太郎さん。「安いのにしましょう」って言わないあたり、心遣いを感じる。なんか恥ずかしいなぁ。もっと高給取りだったらスマートに買えるのに。
「このへんとか。このアイボリーも可愛いと思います」
「あ、本当だ。これにしようかなー」
アイボリーに黒のチェックライン。おしゃれな感じ。さっきの花模様のは、もうちょっと大人になったら買おう。もう大人だけど。
「これは15000。ここから社員価格で……んーと」
「え?」
社員価格?
「ちょっと、ここで待ってて」
「あの」
光太郎さんの長い足はあたしを置いて、さっさとどこかへ行ってしまった。
「なんだ……」
置いてきぼりなあたしは、たくさんのヘルメットに囲まれて、ぽつんと。
手持ちぶさたで、ヘルメット達に視線を走らせる。高価なものからお手頃価格まで。色々あるなぁ。女性用の可愛らしいものから、けっこうハードなカラーリングのもの、キッズヘルメットもある。今回ヘルメットと買って、いつか買い換えるその時のことを考えたりして。白も良いけど、ブラウンも格好良いな。つや無しブラックもおしゃれ。
「おまたせー」
ぼんやり棚を見ていたら、また後ろから光太郎さんの声。
「はい、ヘルメット」
ビニール袋に入った箱を渡される。
「え?」
「ヘルメット。あのさっきのアイボリーの」
「あ、じゃレジに」
「いや、俺からプレゼント」
「は?」
この人、なに言って……。あたしはきっと、白目をむいていたに違いない。
「自動車学校、がんばって」
「へ?」
「入学祝い」
入学祝い? 学生かってーの。あたしの顎、外れたかもしれない。重力に従って地面に落ちるかもしれない。
「うそうそ、こんな高価なものいただけませんってば!」
「まぁ、お祝いだから」
うそでしょ。こんな丸くて大きいもの、貰ったの初めてだよ……!