恋ごころトルク

 グローブは、レディースコーナーで選んだ。まだ初心者だし、無難なものを。赤い皮のバイクグローブ。5000円ちょい。軍手ならもうちょっと安く済んだだろうけど、まぁ、ちゃんとしたもので教習したいよね。

 フリル付きやレースアップになってるお洒落なもの、白とか。ピンクとか。女性ライダーってずいぶん可愛いの着けるんだなぁ。人によって好みはあるだろうけれどね。
 スマホを取り出して、時間を確認する。

「ああ、戻らないと。入校式があるんです。自動車学校に戻らないと」

「へぇ、入校式なんてあるんだ。俺の時は無かったかなぁ」

 光太郎さんはどこで免許取ったんだろう。

「俺、実家県内だけど、そんなの無かったなー」

「県内出身なんですね。あたしもです」

「ひとり暮らししてるの?」

「はい。こ、光太郎さんは?」

「俺も。あ、時間大丈夫?」

 はっ。そうだった。もっと話していたいけど。

「今度、隣に併設されてるカフェにもおいでよ。美味しいケーキもあるから」

 ケーキだってケーキ! そんなものもあるんだ。ふたりでケーキ食べておしゃべりしたいなぁ。デートみたい。えへへ。

「うちのショップでやってるから。今度、是非」

「はい。じゃあ、そろそろ……」

 光太郎さんもお仕事中だもんね。行かなくちゃ。

「気をつけて。またおいで」

「はい。ありがとうございました」

 あたしはお礼を言って、ヘルメットとグローブが入ったビニールを持ち、ショップから出た。


 まだとても良いお天気だ。今日は1日この調子なんだろうな。洗濯物も良く乾きそう。家に居るんだったらお布団も干せたけどね。

 自転車に乗って、ペダルを漕ぐ。気持ち良いな。バイクだったらもっと早くて、もっと気持ち良いだろうな。分かる。想像できる。あたしは、自転車のグリップをぎゅっと握って、自分がバイクで走る姿を想像して走った。顔がにやけてきて、そして光太郎さんの顔が浮かぶ。うふふって言った吐息は、風に流されて行く。


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