恋ごころトルク
それから、時間ギリギリまでクランクをみっちり。足を着いたり、バランス崩して倒れそうになったり、よたよたしたり。それでも最後の2本くらいはバランスを崩しながらも倒れず足も着かず、クリアすることができた。
「はい、じゃあ……時間だからね。発着点に戻りましょう」
「は……い」
もう、ヘトヘトだ。人生のうちで、細いクランクをあんなに何度も通ることなんか、無いに違いない。
先生の後に付いてなんとか発着点に戻り、最後の力を振り絞って取り回しして、バイクを駐車させる。
待合いスペースに戻り、ヘルメットとグローブを外した。汗びっしょり。だるい手でプロテクターも外す。
呼吸を整えていると、先生が戻って来られた。
「はい木下さん。えー今日はね……クランクね、どうでしたか?」
どうでしたかって……それって難しい質問です先生。
「……あんまり上手く行ったとは言えません。どうしてもバランスを崩してしまいます」
「そうだね。まず視線だなぁ。進行方向に頭が動くのが遅いね。あと上半身が硬すぎる。もう少しゆったり乗ると良いと思います」
「はい……」
「それから、足がパタパタとタンクから離れすぎ。しっかりニーグリップすること」
「……はい」
「もう1回だねークランク」
オ、オーバーだ……! 最低教習時間は決まっているんだけど、こうやってオーバーしていくと、お金も時間もかかってしまう。
ああ、たくさんのダメ出し……。今日はなんか良いところ無いなぁ。「心が折れそう」などという表現じゃ足りない。
自転車で走っているようには行かない。なんていうか、バイクの重さに振り回されてる感じがする。意のままに動かせるようになりたいな……。
荷物をロッカーから出し、鍵を返す。ひと息つきたい。外にベンチがあるから、そこでちょっとお茶でも飲もう。あたしは自動販売機でペットボトルのお茶を買い、外へ出た。
汗が風で冷えていく。冷えると風邪をひいてしまうよね。もうすぐ次の時間が始まるから、みんな準備を始めている。それをぼんやり見ていた。
またすぐ乗ることになる。次の休みには2時間連続で乗る予約を取っていた。