恋ごころトルク


「あの……こんにちは」

 後ろから女性の声がした。あたしかな? そっと振り向くと、小柄な女性が立っていた。可愛らしい笑顔。

「二輪、ですよね?」

 遠慮がちに聞いてくる。ああ、この女の人も二輪なんだな。あまり会わない二輪教習に通う女性。

「そうです。まだまだ終わらないですけど」

 頭を掻きながら、そう答えた。

「大型ですか?」

 ……みんな、同じことを聞くなぁ。車だったらオートマかマニュアルかってところか。

「普通二輪なんです。大型ですか?」

 何度も聞かれるから、自分でも聞くようになってしまう。

「大型なんです。重くて重くて……」

「すごい! 大型かぁ。なにかバイク乗ってるんですか?」

「いいえ、持ってないです。車の免許も持ってなくて」

「ええ!」

 バイクに乗ってなくて、車の免許も持ってないのに、バイクの免許を取ろうとしているなんて。凄い。アグレッシブ。格好良い。

「半クラッチとか、意味分からないですよー」

「そうですよね。あたし車はマニュアルで取ったんですけど、それでもバイクの半クラはエンストしちゃいます」

 そっか。車の免許を持っていても持っていなくても、バイクはバイク。なんかね、車とは違うよやっぱり。

「重いですよね。とにかく。重さにやられてる」

 ため息を付きながら言った。

「そうですよねぇ! あたしも重たくて重たくて……」

「大型って750ですよね。なんか想像できない……あたしなんか普通二輪の400であんなに手こずってるのに」

「でも、同じですからね、操作は。きっと大型すいすい取れますよ」

「そうかなぁ……アハハ」


 ふたりで座って、教習のことをあれこれ喋った。みんながんばってるなぁ。その女性はマイヘルメットも持っていなくて、貸出のを使ってるらしい。



< 54 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop