恋ごころトルク
喉が渇いていた。さっき買ったペットボトルのお茶をぐっと飲むと、口の中と頭も潤っていく感じがする。
頭では分かっているのに、理解して消化してるつもりでも、バイクに跨ると、うまく出来ない。緊張と、あとなんだろう。「重い」っていう先入観と、倒したら起こせないって分かってるから。両手のバランス、ニーグリップ。クラッチとアクセル。ブレーキのかけかた……って、分かってるのになぁ。なんで出来ないんだろう。なんでかって言ったら、だから緊張と……。ああもう、振り出しに戻る。
練習したい。練習とイメトレあるのみでしょ。悩んでたって仕方がないんだ。あたしはスマホを取り出して、電話をかけようと思った。タップして、耳に当てる。初めてかけるよ。名刺からもう登録したもんね。
コールの度に、心拍が上がる。
「はいもしもし、霧谷です」
出た! 当たり前か……。
「あの、木下と申しますが……あの、光太郎さん、ですか?」
なんでだろうね。ちょっと素敵だなって思ってる男の人に電話する時って、血圧上がるよね。昔からそうだよ。
「はい……あー、真白ちゃん?」
真白ちゃん? そう言われて、ほっして、そしてドキリとした。電話で、真白ちゃんだなんて。いや、もう1回言ってください。
「自動車学校から?」
耳を澄ませていたら、現実的な質問。そうだよね、良いよ。夢見すぎなんだよ。
「そうなんです。今日はもう失敗ばかり……光太郎さんお仕事大丈夫ですか?」
「良いよ、大丈夫だよ」
仕事中だから、そうしょっちゅうは出来ないだろうってことぐらい分かってる。今日行けば2回目。だからもうちょっと光太郎さんの負担にならない様なことを、考えないといけない。
仕事先に練習しに行くなんて、ずうずうしいかもしれない。
「すみません。じゃあ今から行きます。教習終わったんで」
「気を付けて来てください」
電話を切りながら、自転車置き場へ移動した。半月ぶりくらいだろうか。光太郎さんに会えるんだ。ドキドキと胸が高鳴る。
「単純だな、あたしは」
ひとり言を落として、自転車に鍵を差し込み、カシャンと開けた。