恋ごころトルク
二輪の免許無いの? なんだか意外。光太郎さんの弟だから乗ってるもんだと思っていた。
「誠太郎さん、バイク乗ってないんですか?」
「兄貴がバイク屋だから乗ってると思ったでしょ。残念でしたー」
誠太郎さんがアイスコーヒーを飲んだ。氷の音が涼しげ。
「今から取れば?」
「やめておくよ」
「まぁ……そうか」
そっかぁ。バイクに興味が無いのかもしれない。好きじゃなくちゃ乗れないものね。なんて、一丁前のことを言ってみたりして。
「お兄さんバイクの仕事してるけど、興味無いんですね」
おしぼりで手を拭いた。「うーん……というか」とボソボソ言いながら、誠太郎さんがアイスコーヒーのグラスを置くと、またカランと氷の音がした。
「小学5年の時、人のバイクにいたずらで勝手に乗ってすっ転んで、ボキッ、腕ぶらーん。もう怖くて乗れない」
「……え」
誠太郎さんが左腕を肘からプラプラ振った。
うわぁ……。小学5年の時ってことは、光太郎さん16か17歳くらいの時かしら。高校生か。教習で転ぶだけでも怖いのに、腕を折ったなんて……! 怖いどころの話じゃないよ。
「骨が折れる音を小学生にして聞く、俺。しかも自分の」
「いまでも、天気で痛むって言うもんな」
「骨が出たからね」
「……!」
複雑骨折……!
鳥肌。誠太郎さんが食べているのはチキンサンドだけど、鳥肌が立った。
「怖がらせるわけじゃないけど、事故には気をつけて。女の子だし、顔に怪我でもしたら大変だから。顔じゃなくてもさ。兄貴がちゃんと教えてくれると思うけど」
「はい……」
そうだよ。体が剥き出しのバイク。事故には十分気をつけないといけない。