恋ごころトルク
「たまに半袖半ズボンサンダルとかで乗ってる奴を見るけど、考えられない」
「俺たまに半袖で乗っちゃうけど」
「危ないから、せめて長袖にしてください」
タケさんは着ている長袖をまくる。そこから手首までがっちり入った刺青が顔を出した。
「これ天然の長袖」
「天然じゃないし、それ地肌だから。いいからタケさんうるさい黙ってて」
「なんてこと言うの」
誠太郎さんにびしっと言われてタケさんは泣き真似してる。なんだこの2人……。タケさんより誠太郎さんは年下だろうに。
「バイク、好きなんですね、ずっと。だから仕事してるんだぁ」
子供の頃からバイク好き。そしていまバイクに携わる仕事をしてる。夢を叶えたって感じなのかな。
「そうだね。俺はまぁ、だから、怖くて大きなバイク乗れないの。原付くらいは乗れるかな。普通免許でいけるし」
「そうなんですね……ごめんなさい」
「なに謝ってんの~」
アハハと笑う誠太郎さん。
別にあたしが何かしたわけじゃないけど……怪我して苦手なバイクの免許を取ろうとしてる女が目の前に居たら、気持ち良くは無いんじゃないだろうか。
気にしすぎかな。
「余計なこと言うなって、兄貴に怒られるかもしれないけど……」
言い淀んで、長い指はアイスコーヒーのグラスを掴んだまま。
「……ちょっとね、荒れてたんだよ、兄貴。バイクは、まぁ昔から好きだったのか仲間の影響か知らないけど、当時、俺は小学生だったしあんまりよく分かんなかったけどな」
「荒れてた……?」
「まぁ、年頃の男の子だもんねー。反抗期をこじらせたのかも」
タケさんがちゃかしたように言う。それを誠太郎さんはきっと睨んだ。
「荒れて不良とつるんでたって言っても、やれどこで喧嘩したとか、夜ほっつき歩いてて補導されたとか、そういう感じ。喧嘩が一番多かったかも。でもまぁ当時は家庭内で大問題だったよ」
そりゃあそうだよね。家族に1人そういう人が居たら。