恋ごころトルク
光太郎さんが、荒れてた。不良とつるんで……なんか、想像できないけど、そういう過去があったんだ。
「し、知りませんで……なんだかあたし脳天気に……」
「別に真白ちゃんがそんな風に思うことないでしょ」
タケさんに言われる。たしかにそうだけど。
「でも結局はバイクで、更正したっていうか、真面目になって今があるんだから、良いよね」
光太郎さん「いろいろあった」って言うけど、それがこのことなのね、きっと。
「兄貴は、俺の怪我は気にしてるけど。まあ当時、親にもぶん殴られてたからね。お前が乗るから誠太郎が真似すんだろって」
あたしに弟は居ないけど、自分が高校生で小学生の弟が大怪我したら、ショックだよね……。直接関係していなくても、自分の影響で弟が真似して乗って、怪我をしたと分かったら。
「俺が怪我してからだもん。兄貴がちゃんと学校行くようになって、改心したって言うかなぁ」
誠太郎さんの話を、あたしはじっと聞く。食べるのを忘れていた。タケさんは事情を知ってるだろうから、普通に食事していたけど。
「でも、バイク好きなのは分かってたから、高校卒業してからそっちの道に行きたいって思ってるなら、辞めるなって言ったよ。嫌じゃん。自分のせいでそういうの、諦めるの。バイク辞めさせたくて俺、怪我したんじゃねーし」
なんだか、食事が喉を通らなくなってしまった……。のん気にしてたあたし、ちょっとバカみたい。
「俺の怪我は自分が悪いの。そんなの分かってるしね。兄貴が悪いわけじゃない」
アイスコーヒーは氷しか無くなっている。グラスを水滴が繋がって落ちていく。
「俺のこととか、怪我とか兄貴がどうのとか、真白さん気にすること無いけどね。バイク好きを助けたいのは兄貴のバイク好きがさせることだし。バイク乗りはバイク乗りに優しいしな」
半分残ったサーモンサンドをじっと見て、光太郎さんの顔を思い出してた。
「そうだな。俺は美人の女の子にも優しいし、可愛い男も好きだ」
「タケさん黙ってて」
あの、どこか知らないところを見てる眼差しを思い出した。真っ直ぐ遠くを見る横顔。
「まぁ、そんな兄貴のこと、よろしく」
「は?」
目を見開いてしまった。なんなんだ。タケさんもニヤニヤしてる。なんだよ、なんだよ! 真面目な話をしてたんでしょうが!