恋ごころトルク
「この間、店に来たんだって?」
豚しょうが焼き丼が出来たとの声に重なるようにして、光太郎さんがそう言った。
やっぱりね。そのことか。あたしが会ったのは、タケさんと弟さんだものね。あたしから聞かなくたって、光太郎さんの耳に入っていくだろう。
あたしは「お待ちください」と言って豚しょうが焼き丼を取りに行き、戻って来て、いそいそと動きながら返事をする。
「そう、タケさんと、あと弟さん……誠太郎さんと」
「聞いた」
「ご飯ごちそうになりました」
「そう……」
味が思い出せないサーモンサンド。次に行く機会があったら、またサーモンサンドを食べよう。
でも、光太郎さんの顔色が気になる。誠太郎さんと会ったことが、あまり気に入らないのだろうか。
「はい、豚しょうが焼き丼お待たせしました」
最初に置かれていた千円札からお釣りを出す。渡す時に光太郎さんの手が少しだけ触れた。
外の雨はさっきよりも激しくなっている。
「雨……激しくなって来ちゃいましたね」
「そうだな……」
歩道と道路。雨で濡れてきている。梅雨だもんね。お天気も不安定。朝、晴れていたと思ったら午後から雨が降り出すなんていうのもあるんだから。
窓の外を見る光太郎さん。スクーターで来てるから、傘を貸すわけにもいかない。頭への雨は、ヘルメットで防いでください。
帰りの道中を応援する為に、小さくガッツポーズを送る。
「帰り、送るから」
「え?」
なんて? いま、なんて言いました? 聞き間違えた?
「仕事が終わったら、電話ちょうだい」
「え? ちょっと、あの」
「迎えに来る」
ビニール袋のガサガサという音と共に、光太郎さんは店外に出ていった。
ちょっと、なんでしょうか、いまの。迎えに来るだと? なんで?
あたしは伝票を整理するふりをしながら、厨房の方を見た。店長と奥さんは、洗い物をしたり野菜をカットしたりしている。いまの話、聞いていなかったみたい。……良かった。
帰り、送るって、迎えに来るからって、どういうこと? いや、送るって意味は分かるけど。なにちょっと、展開が早すぎて分からない。