恋ごころトルク

「ここの信号左折だよね?」

「あ、はい。で、コンビニのあたりで……」

 ああ、着いてしまった。コンビニで降ろしてくださいと言えなかった。窓の外を過ぎていく見慣れた景色。今晩は雨で視界が悪い。

「近いんだ」

「はい」

 国道から左折して細い道を通り、すぐコンビニが見える。ウインカーを出して駐車場へ入ると、静かに停止した。駐車場に車は無い。雨降りの中に浮かび上がる明るいコンビニ。あそこはいつでもどんな時でも明るい。

「ここでいいの?」

「はい……ありがとうございます」

 着いちゃった。ここで降ろして貰って、あと歩いてすぐだ。雨はフロントガラスを叩きつけている。さっきより激しくなってるように思う。

「送っていただいて……」

 ありがとうと、まだ一緒に居たい気持ちと、混ざって、うまく言葉が出ない。

「あの」

「お疲れさま……」

 光太郎さんが、ギアに手をかける。

「あの、あがって行きませんか? なにか飲み物でも」

 雨は降り止まない。まだ帰りたくないし、光太郎さんとまだ一緒に居たい。

「飲み物くらいなら、あるんです」

「……真白ちゃん」

「お願い、少しでも、一緒に居たいです……」


 こんな風に言って、家に入れるなんて、あたしを軽い女だと思っただろうか。光太郎さんの顔色は見えない。見られないし、自分の顔を見られるのも嫌だ。

 コンビニの駐車場にこのまま止めておくことにして、ひとつの傘にふたりで入って、アパートへ来た。「じゃあ、少しだけ」と低く言う声が、まだ耳に残っている。車が少し心配だけど、広い駐車場の端に止めたし、すぐ帰れば大丈夫だろう。1時間も2時間も居るわけじゃない。


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