恋ごころトルク
「濡れちゃいましたね。いまタオル出しますから」
「いいよ。洗濯物増やすことないよ」
玄関先で光太郎さんが雨粒を払っている。洗濯物を増やすなと言われても、濡れたまま放って置くわけにもいかない。
広くないあたしの部屋。友達ひとり呼んだだけでも「狭いなぁ」って感じるんだもの。
「はい、これで拭いてください」
洗って仕舞ってあったタオルを出して渡し、冷蔵庫にあるペットボトルをテーブルに置いた。
「入ってください。どうぞ」
「おじゃま、します……」
1Kにベッド、テレビ。小さなテーブルと、ノートパソコン。あたしの部屋は、あまり荷物が無い。
「ピョッ」
「えっ……っくりしたぁ」
「あ、あはは。きなこって言います。女の子」
光太郎さんがきなこの存在に気付いて、顔をほころばせた。あたしはその隙に、ベッドの上に投げてあったブラジャーをスライディングして取る。
「?」
「いえ、なんでも……」
危なかった。
「可愛いなぁインコ。おい、きなこ、キナコチャン」
「ピョ」
きなこは誰にでもそうするように、側に寄ってくる。おいきなこ、それ大事な人だから。可愛く機嫌を取っておくれよ。
思えば、きなこを飼いだして2年程になるけど、ここに男性を連れて来たことが無いかも。
「喋るの?」
「いいえ。懐いてますけど喋らないです。インコ語だけ」
鳥かご越しに、指でチョンチョンときなこに合図してる光太郎さん。
「きなこ、初めて男の人見たかも」
「まじか……」
部屋の中が湿っぽい。エアコンの除湿をかけた。
「寒くないですか?」
「真白ちゃん」
「は、はい」
「この間、誠太郎達と飯、食べた時」
ピョピョと、きなこの声。
窓は防音じゃないから、雨の音が聞こえる。まだ強く降っている。「座って、どうぞ。お茶ありますから」と、普段自分しか座らない座布団と、ペットボトルを勧めた。
光太郎さんはあたしの声に反応して、鳥かごから顔を離し、立ったままでこちらに背を向けている。座れば……いいのに。
「なに、聞いた?」
沈黙が重たくなってきた頃、光太郎さんの声がした。雨音で聞き逃したんだろうか。言葉の意味が分からない。
「え?」
「誠太郎から……俺のこと、なに聞いた?」
低い光太郎さんの声。
「あ、いえ。別に……」
余程鈍感じゃない限り、分かること。誠太郎さんの怪我のことだ。そのことを言ってる。
「あいつ、別に特別なこと話してないよって言ってたけど、なんか聞いた?」
ずいぶん気にしてるように思うけど……光太郎さんの声が心なしか厳しい。