恋ごころトルク
「ちょっと……昔のことと、あと、怪我したって」
「誠太郎が?」
「お兄さんがバイクの仕事してるけど、誠太郎さんはバイク乗らないんですねって聞いたんです。そうしたら誠太郎さん、小学生の時にバイクで、いたずらで他人のバイクに乗って、骨折したって」
「……」
どうしてそんなに気にするんだろう。窓に当たる雨の音が、落ち着かない心をも叩く。
「俺が荒れてた頃の話とかも、聞いただろ」
「ああ……はい。でも、まぁ別にあたしは……」
だから、なんだって言うんだ。荒れていようがなんだろうが、過去の話でしょう……? 光太郎さんの真意が分からない。
こっちを向かない。どんな顔をしているのかも分からない。
「あいつがいたずらして乗ったのは、俺のバイクだ」
さっきまで鳥かご越しに小鳥を可愛がっていた手。力強い手。
「え?」
「俺のバイクに乗って、あいつは怪我をしたんだよ」
「そうなん……」
「俺は……悪いやつらとばっかり遊んでたし、暴走族の奴とかも居たし。一緒に走ったこともあるし」
ぼ、暴走族……? そんな単語が出てきて、あたしはドキリとする。
「暴走してたわけじゃなくて、バイクに乗りたかっただけなんだけどな。仲間がしてると自分もして良いと思っちゃうのな。集団って怖いよ。当時は悪いと思ってなかった」
早口で喋るから、光太郎さんの息が少し上がってるように思う。
「見よう見まねでいじって、整備不良のバイクだ。それで誠太郎は事故って、怪我をしたんだ」
雨音が、激しい。
「それだけじゃない。あいつ、腕に少し障害が残ったんだ。だから、やってた野球も辞めた」
「……」
腕に、障害。先日会った時は、全くそういう風に見えなかった。誠太郎さんが事故ったバイクは光太郎さんのバイク。それで、大怪我を……。
「小学生の時に腕を折ったから、だからもう怖くてバイク乗れないって……」
誠太郎さん、腕が……?
誠太郎さんは、そこまでは言わなかった。光太郎さんの名前を出さなかった。バイクの持ち主のことも、黙っていた。