恋ごころトルク
「光太郎さん……」
雨が激しくて、風も強い。傘を開くのが遅くて、濡れてしまう。せっかく乾いた彼の肩を、再び雨が濡らす。
「待って、光太郎さん」
あたしの声が聞こえないのか、ドアを開けて車に乗り込もうとした。その時、彼の目があたしの姿を捉える。
「こう……」
合った視線は、どれくらい繋がっていただろうか。2人とも濡れそぼって、暗くて、あたしは光太郎さんしか見えなくて。
光太郎さんは……どこを見ているの……?
「待って」
視線を外して、光太郎さんは車に乗り込んだ。道路へ出ようと、ゆっくりを走り出す。行かないで。止まって、お願い。
「光太郎さん!」
雨音が激しくて邪魔をする。晴れていれば、少しは届いたかもしれないのに。あたしの声が、光太郎さんの耳に、少しは届いたかもしれないのに。そうすれば、きっと。顔が痛くなるくらい、泣かなくても済んだのに。
傘なんか役に立たなくて、ビショビショに濡れた体で、遠くなる車のライトをずっと見ていた。見えなくなるまで。雨の中で。
*