桃から生まれなかった桃太郎
あの日のことは、まるで昨日のことのように隅々まで思い出されました。

男の足にすがりつき、蹴り上げられて、うずくまった父のうめき声や、

取り乱し、嗚咽し、気が狂わんばかりに叫んでいた母の、

見たこともないようなゆがんだ顔。

この日を境に、父や母との当たり前の日々が、どんなに幸せだったかを、思い知らされたのでした。

そうして、たえと鬼と呼ばれる者たちとの生活が始まったのでした。
< 131 / 200 >

この作品をシェア

pagetop