桃から生まれなかった桃太郎
たえはモリトにすがりつき、声を上げて泣き、叫びました。

「モリトが悪い。モリトが、わたしの何もかもをうばってしまう」

モリトの心もまた、悲しみに満ちていました。

この娘を連れ去って、幸せだったのは自分だけではないか、と。

モリトは言いました。

「心配するな。この子はここで育てよう。

誰の目にもふれぬよう、ここから一歩も出ぬように」

たえもまた、モリトの、姿に似合わぬ優しさを愛していました。
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