図書館からはじまる



次の日から仕事は忙しくなった。


まずは、俺の辞令が出た。


上司たちは急に敬語になり、「社長のご子息だったんですね…」と話しかけられたりした。


松田には、「おいおい、なんで言ってくれなかったんだよ!ああ…すみません…」


「いいよ。タメ口で」


「隠すことないじゃないか」


「会長命令だったんだ…」


「そっか、それなら仕方ないな。けど、名前“太田”だったんだな。変え方が細かすぎるよ」


「それは、社長の案だ」


「そっか、仕方ないな…」


「松田は、上に弱いな」


「だから、今後とも宜しくお願いしますね!宗輔さん」


調子が良すぎる…


社長には「二ヶ月後ぐらいで専務に…」という話だったが、今月いっぱいで人事部から離れることになった。


引き継ぎをしていかなくてはならない…


今年の新入社員の日比野篤(ひびのあつし)という真面目な好青年に引き継ぐのはやり易い。


もう一人の新入社員、田之上侑斗(たのうえゆうと)は、少しチャラくて、必ず語尾に“〜っす”がつく。


同期の二人を見ていると、松田と俺の新入社員の頃を思い出す。


あの頃は、必死に仕事を覚えて、祖父や父に早く近づきたいと思っていた。




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