図書館からはじまる



太田さんは、そのまま帰って行った。


閉館後の片付けをして、櫻子さんと世間話をしながら、図書館を出る。


「あっ、18時50分の人じゃないですか?待ち伏せですか?」


「私、からかわれてるんです…」


「からかわれてるんですか?
なんか、話をしたそうな顔してますよ。あの方…」


「そうですか?」


「では、私は先に帰ります」


「え〜櫻子さん…帰っちゃうんですか?」


櫻子さんは、足早に帰って行った。


太田さんは、申し訳なさそうな顔をしていた。


「あの、のっぽさんごめんなさい。なんか俺、気に障るようなこと言ったよね?」


「…」


「あっ、瞳子さんごめんなさい」


私は、何度もちゃんと謝ってくれることと、名前を覚えていることにに驚いた。


「言い直さなくてもいいです」


「ごめん」


「ふふふ」


何度も謝ってくれるし、なんかこの人、遊んでそうに見えて、しっかりしてるんだなと思うと、そのギャップに笑いが出てしまった。


「え?」


「だって、太田さん、さっきから謝ってばっかりなんですもん」


「ちゃんと謝らないといけないと思って、本当に申し訳ありませんでした」


「また…ふふふ」


「あ…」


身長のこと、部活のことも、何回も色んな人に聞かれて、嫌だけど、慣れていることには違いないので、そのことを伝えた。


そして、こんなにも一生懸命謝ってくれる人って今までいなかった…


「ありがとうございます。今までそんなに謝られたことなかったし。太田さんが、そんなに誠意のある方だと思っていませんでした」


「誠意なのか?自分でもよくわからない」


「そうなんですか?でも、ちゃんと伝わりましたよ」


怒ってなんかいないのに、怒っているのか聞かれた。


出会ってから、あまり印象は良くなかったけど、何だかこの人いい人なのかもしれないと思った。


その後、駅まで一緒に帰ることになった。


私は、自転車なので、自転車を取りに行き、押しながら歩いた。


「家近いの?」


「自転車で、10分ぐらいです」


「じゃあ、結構近所かもしれないね」


他愛もない話をして、駅まで着いた。


「私、こっちなので」


「あっ、じゃあまた」


ほとんど話はしていないのに、あっという間に駅に着いてしまっていた。


なんでだろ?



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