紳士な課長、愛をささやく

優しくされるたびに心が浮き立つ。
仕事は厳しく、困っていたらさり気なく助け船を出してくれる。

この淡い想いを止めることは出来なくて、私の片倉課長へのキモチは加速していくばかりだ。

だからといって、キモチを伝える勇気はない。
いつかチャンスがあったら……とは思っているんだけど。

黙々とファイルをスチールの棚に片付けている片倉課長を見る。

背が高いから脚立を使うことなく、手を伸ばすだけで届く。
顔が小さくて足も長く、モデル体型だ。

ラストのファイルを手に棚に直そうとしたけど、それは私だと脚立を使わないとダメな場所だった。
脚立をそこに運び、片足を乗せるとギシッという嫌な音がした。

「蓮見、それでラストだろ。俺が片付けるから貸して」

不意にかけられた声に振り返る。
脚立から足を下ろし、近付いてきた片倉課長にファイルを差し出した。

「お願いし……っ、」

渡そうとして、ファイルの下で片倉課長の指先が私の手に触れた。
それだけで私の鼓動が速くなる。

課長は何事もなかったかのようにファイルを棚にしまう。
その後ろ姿を見て、手が触れ合って意識しているのは私だけなんだと思うと少し悔しくなる。

片倉課長にも同じように意識して欲しいけど、それはあり得ない話だ。
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