秘密が始まっちゃいました。
「スピーチももう一回見せてください」


私は彼からスピーチ原稿を受け取り、階段を降りつつ読んだ。


「いいですね。泣く要素ゼロ!福谷が頑張り屋ってのを面白おかしくスピーチできそうですね」


「ふふん、当たり前だ。喋りは得意だからな」


確かに、彼は社内トップクラスの営業マン。
プレゼンの上手さには定評がある。
この点は唯一安心かもしれない。

シネコンのある複合ビルをとうとう階段で降りきり、私たちは駅に向かう。
私の方が終電が早い。
足早に改札を目指す私は、横の荒神さんを見上げた。私に付き合って早足で歩いてくれている。


「明日、頑張りましょうね」


「ああ、今日までの努力を見せてやるからな」


……それは期待できないです。


「あ、望月のドレスアップ姿、楽しみにしてるから」


荒神さんがさらっと付け加えた。
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