秘密が始まっちゃいました。
「あー、あの時はさ。恩人が亡くなったんだ」


「え?」


私の質問は、本当に軽々しくしてはいけないものだったのだ。しかし、荒神さんは話してくれる気らしく、続けて口を開く。


「俺の前職知ってるだろ?」


「ええ、前代開閉器株式会社」


荒神さんの前職はスイッチメーカーだ。小さなボタンスイッチから、大きなフットスイッチまで。様々なスイッチを製作する老舗メーカー。

今、私たちが勤めるキヅキ電産はそのスイッチも含め、電子部品全般を取り扱う専門商社という立場だ。


「俺、文系の出身だからさ、入ったものの新人の頃はスイッチも、しくみも、部品もちんぷんかんぷんで。それを教えてくれたのが、小さなネジ工場ののおやっさんだったんだ」


荒神さんは懐かしそうに語る。


「うちにネジを卸してる工場の社長さんでさ、昔は大手家電メーカーの部長さんだった人。町工場で最小の部品を作りたいって、始めたらしいんだけど、俺の出来の悪さを放っておけなくなったらしい。色々教えてくれるようになってさ。よく、仕事サボっておやっさんのところに行ったよ。スイッチの知識や、業界の知識、いろんなことを習った」
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