秘密が始まっちゃいました。
引き戸を開けるなり、荒神さんが大声で詫びる。
すっかり常連然とした様子で、店員さんに生ビールを頼み、上着を脱ぎながら私の横の席に着く彼。


「誘っといて遅刻ですよ」


私は一応、唇を尖らせて抗議。

荒神さんが夕食を誘ってくる時は、大抵早く上がれる目算がついた日で、定時後まもなくこのお店で落ち合うことがほとんど。
だから、今日は1時間の遅刻ということになる。


「いやー、すまんかった!羽田を巻くのに時間がかかった」


荒神さんは目の前に置かれた生ビールを一気に飲むと、頼んであったお煮しめをパクパク食べてしまう。本格的に夕食っぽいおつまみを頼まなきゃ。


「羽田さん……、今日から来た彼女ですよね」


私は昼間見たあの好戦的な女子社員を思い浮かべる。


「そうそう、あいつ。残業だから早く帰れって言ったんだけど、『一緒に帰るから手伝います』って聞かなくてさ。1時間ねばって、ようやく帰したところで、即パソコン落として飛んできた。鉢合わせしないように非常階段通って、裏口から出てさ。駅前も避けてきたよ。ミッションだったぜ、マジで」

< 156 / 354 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop