秘密が始まっちゃいました。
トーストと目玉焼きを焼いて、インスタントコーヒーを入れる。
もう知ってる。荒神さんは、コーヒーは薄めのブラックが好き。


二人で朝食を摂っている間もいつも通り。
他愛のない会話をしているうち時間は過ぎていく。


「待ち合わせは何時なんですか?」


「10時に新宿」


「あ、じゃあ9時ちょっと前に出れば間に合いますよ」


「荷物、置いてっていい?後で取りに戻るからさ」


「いいですよ。今日は近所に買い物くらいしか出かけない予定ですし」


これから荒神さんは羽田さんとデート。それが、荒神さんの意に添わぬものでも、二人は楽しい一時を過ごしに行くわけだ。
私は何もできない。

もしも今日のデートが、荒神さんが羽田さんに惹かれていくきっかけになったとしたら。
もしくは、荒神さんの涙を羽田さんが見てしまい、彼女の恋がいっそう燃え上がってしまったら。
私たちだけの秘密が、そうではなくなってしまったら。

考えれば考えるほど、思考は混乱し、酔ったように胸が悪くなる。
だけど、私は何も言わず、荒神さんを送り出すことしかできない。
< 199 / 354 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop