秘密が始まっちゃいました。
いいわけあるかい!
なんてツッコミを果たす余裕もなく、荒神さんが強引に唇を重ねてきた。
この前の触れる程度のキスじゃない。
言い方はおかしいけれど、きちんとした本気のキスだ。

重ねられ、ついばまれ、閉ざした唇と歯列をこじ開けられる。舌を絡められる感触に背筋が震えた。


「……っは……んん……」


顔をそむけようとしても、荒神さんの手が顎を押さえているので果たせない。
一瞬空気に触れた唇は、すぐに彼の所有物に戻った。

逃げられない。

身体は彼の腕に閉じ込められ、背後は壁。
何より、久しぶりに味わう激しいキスに身体はしびれたように動かない。

本領発揮だ、この人。

今までのへらへらした荒神さんからは想像もつかないキス。
いやらしくて、扇情的で、めちゃくちゃ気持ちいい。

かつて瑠璃が張り切ってしていた妄想が過ぎる。

『あの色っぽい唇でめちゃくちゃにキスされてみたい!』
『ベッドの中ではもっともっと意地悪されちゃいそう!!』

ああ、その意味がこのキスならわかってしまう。
たぶん、この人、こっち方面も最高の男だ。


誰もこない非常階段に濡れた音が響く。

容赦なく唇を貪る荒神薫。
まずいと思いながら、最高のキスに惑溺している私。
< 228 / 354 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop