秘密が始まっちゃいました。
「荒神さん……」


「早く、名前で呼んでくんないかな」


ぽつんと呟くと、荒神さんは私の手を引き、ゾウのスペースまで連れていく。


「今日はゾウのはな子に会いにきたんだ」


「このゾウですか?」


「そ、俺が子どもの頃からいるゾウ。子どもの頃から何度も見に来てる」


私はゾウのはな子の静かな瞳を見つめる。
小雨の中、はな子はいっそ気持ち良さそうに自身の庭を闊歩している。


「足ドロドロですね」


「あれ、きっと後で飼育員さんにホースで水かけられて洗われちゃうんだぜ」


荒神さんが楽しそうに言った。彼は子どもの頃からこんな顔で、ゾウのはな子を見ていたのだろうか。

私の知らない荒神さんの子ども時代。
今更気づいた。私、彼のこと、まだ何にも知らない。
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