秘密が始まっちゃいました。
私はことさら慌ててしまう。
二人っきりなんてダメだ。今度また非常階段の時みたいなキスをされたら、拒否できる自信がない。
そのままエッチに持ち込まれたら、荒神さんにとってはラッキーでも、私は自己嫌悪で死にたくなるはず。
こういうところが真面目すぎるってわかってるけど、私的にはエッチでなあなあにスタートの恋はダメ!


「な、いいじゃん。俺、この前のしょうが焼きが久々の家庭の味だったんだよ。前は時々、例のネジ工場のおやっさんちにお邪魔してたけど、奥さんが亡くなってからは、ああいう温かい味とは無縁だったんだ。家庭の味に餓えてる独身男にメシ作ってほしいってだけなんだけどなぁ……」


うう、そんな言い方はずるい。彼がその工場の社長ご夫妻にどれほど想いがあるかわかるだけに、無碍にできない。
どうしよう……。


「あの……ひとつだけ」


私はおずおずと口を開く。


「変なことは……しないって約束で……お願いします」


私の決死の懇願に、荒神さんは破顔し頷いた。


「もちろん」
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