秘密が始まっちゃいました。
私の知らない荒神さんがいた。

男としての野性的な魅力たっぷりの荒神薫。
きっと、彼を抱かれたい男の地位に押し上げている魅力。
多くの女子社員が彼に見ている欲望と憧れそのものの荒神薫がいた。

違う。

私が惹かれたのは違う。

私が胸をかき乱されたのは、オフィスでひとりむせび泣く荒神さんだ。
切なく肩を震わせる彼だ。

動画で泣き、映画で泣き、人の結婚式で泣く涙もろい荒神さんだ。



ああ、私はバカだ。
このタイミングで気付いてしまった。

私が彼の腕に飛び込んでいけないのは、この不一致。

私が惹かれているのは、抱き締めたいのは、私に涙を見せた荒神さん。
涙のたまった赤い瞳で私を見つめる彼。

私が戸惑っているのは、抱かれたい男のイメージ通りの荒神さん。
ワイルドで強引で、キスも愛撫も上手すぎる彼。

私はなんて身勝手なんだろう。

泣いてる彼に母性を燃やして喜んでいただけじゃないの。
迫られたら拒否なんて、ひどすぎる。
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