秘密が始まっちゃいました。
荒神さんが私の両肩に手をのせる。

かすかにびくっとした私を不安にさせないよう、両手は包むように優しい。
その温度に私の張り詰めた心が緩む。

荒神さんが腰を屈め、私に顔を近づけた。

今、荒神さんは私にキスしたいと思ってる。

熱っぽい視線から、薄く開いたセクシーな口元から、それが伝わってくる。
私はくすぐったいような高揚と、同じくらいの戸惑いに目を伏せた。

荒神さんがすっと私から顔を離した。両手も肩から外して、一歩下がる。
キスできる場所でも、雰囲気でもないと思い直した様子だ。

がっかりは……してない……はず。


「またメールする。メシでも行こ」


笑って言って、荒神さんはエレベーターホールに向かって歩きだした。
私はその背を見つめ、きゅっと縮んだ胸にこぶしを当てた。

離れていってしまう彼の背中。
慕わしく、寂しく感じるこの気持ちはなんだろう。






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