秘密が始まっちゃいました。
10時55分。私は覚悟を決めてオフィスチェアから立ち上がった。
荒神さんにはこの一週間ほとんど会っていない。

きっとすんごいキレてる。
絶対、怒られる。
でも、無視するわけにもいかない。

小会議室1は八畳ほどの部屋で、中央に長机を4組向かい合わせにして置いてあるだけ。使われない時は窓にブラインドが降りていて、室内は暗く冷えている。

その暗い室内で電気やエアコンをつけようか迷っていると、荒神さんがやってきた。
私は部屋の奥、窓寄りの位置に立つ。
荒神さんは長机を挟んで入り口側に立った。

私は言葉が見つからず、彼の反応を待つ。
荒神さんはすぐに口を開いた。


「福谷から聞いた、土日の件。嫁の瑠璃さんとメシに行っただけで泊まってはいないってな」


「あ……」


荒神さんから発せられるピシッと音が鳴りそうな張り詰めた空気。

私は、腹の中で福谷を罵倒した。
あのバカ!買収されといて、バラすな!
買ってやったゴルフグローブ返せ!

しかし、福谷ばかりを責めるわけにはいかない。
真に悪いのは、荒神さんを避けるために嘘をついた私だ。

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