秘密が始まっちゃいました。
互いに視線を外さず、じりじりと動く。
隙を伺う動物同士みたいな緊張感の中、

ぷるるるるるん

珍妙な音で私のスマホが鳴り響いた。
バイブにしてなかったんだ。気付かなかったよ……。

ぷるるるるるん


間抜けな着信音が小会議室にこだまする。


「出れば?」


荒神さんが剣呑に言った。
彼は、この電話を隙として私を捕まえたいのではなく、私のスマホを平日昼に鳴らす人間の方が気になる様子だ。


「いいですよ、別に」


「いいから出ろって。一時休戦してやるから」


私は制服のベストからスマホを取り出す。
画面にうつるのは『好子おばちゃん』の表示。
あの人は……、平日の昼、私が仕事中だとか考えないのかしら?
リタイア世代ってそういうもの?
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