秘密が始まっちゃいました。
玄関を抜け、表階段を降り、飯田橋の駅に向かって歩き出した。

すると、私の手が背後からつかまれ、引っ張られた。

急のことに驚き、振り向くとそこに荒神さんがいた。
私は彼の顔を間近に見て、凍りつく。


「日冴、待って」


「……帰国されたんですか」


荒神さんは息を切らしていた。
格好は普段よりずっとくたびれていた。スーツはヨレヨレだし、髪も一部へたっている。飛行機でずっと座っていたせいもあるだろう。


「今、羽田空港から戻ったところ。おまえが帰るのが見えて、走ってきた」


私は答えず、彼の手を振り払った。
そして、飯田橋駅に身体を向け直す。


「待てってば」


荒神さんが慌てて、私の後を追ってくる。私の横に並んで歩き出した。狭い歩道で対向者を避けながら。
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