秘密が始まっちゃいました。
ラウンジでコーヒーを飲んだ後、好子おばちゃんに連れられ、ホテルのメイクルームにやってきた。
お着物用にデコルテラインまでしっかりメイクされ、髪の毛は造花も盛って華やかなアップスタイル。おばちゃんの用意してくれた豪奢な振袖に腕を通す。


「私が娘時代に着てたものの一着なんだけど、いいでしょう?」


赤の地に大振りのぼたんが咲き乱れた振袖は、何十年も前のものとは思えないくらいだ。育ちのいいおばちゃんが、お嫁入りしてからも綺麗に手入れしていたせいだろう。


「去年、艶子(つやこ)ちゃんもこのお着物を着て、ここでお見合いをしてね。素敵な旦那様とめぐり合ったのよ。だから、日冴ちゃんにも良い出会いになりますようにってね」


お見合いで結婚した年下の従妹の話だ。母から聞いたところ、彼女はニューヨークで新婚生活を送ってるって。
おばちゃんの無邪気な好意に申し訳なさでいっぱいになる。

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