秘密が始まっちゃいました。
着付けが終わり、鏡に映る私は、ちょっといいところのお嬢さんといった装いだった。
同時に明らかに成人式のお祝いには見えないトウの立った振袖姿に、『お見合いです』感が溢れていた。こればっかりは仕方ない。


「綺麗よ、日冴ちゃん。さ、移動しましょう」


おばちゃんに促され、私はホテルを出た。庭園の中にある料亭が今日のお見合いの舞台となるらしい。

四季折々の植物が楽しめる庭園は、紅葉の美しい時期だった。
色づいた木々が庭園を彩る。もみじはまだ始まったばかりで、青い葉も一部残るのが季節の移り変わりを感じ、また美しい。

秋晴れの肌寒い風の吹く日だ。
まだ時間があるため、ゆっくりと庭園を料亭まで歩きながら、私の頭の中はぐちゃぐちゃだった。

どうするのよ、ここまで来ちゃって。

こんな気持ちでお見合いなんてバカもバカだ。
相手方にも好子おばちゃんにも失礼だ。

喧嘩の勢いだけでお見合いを受けておいて、やっぱり私の頭からは荒神薫のことが離れない。

昨日の飯田橋駅、泣きそうだった彼の顔が離れない。
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