秘密が始まっちゃいました。
何やってんのよ、あの人。
こんなところまで追いかけてきちゃって。

私のこと、さらいに来てくれたのだろうか。
映画のワンシーンみたいに。

いや、違う。
あの人は『ただ私を見に来ただけ』なのだ。

行ってほしくない。
だけど、止められない。

言葉を尽くしても、抱き締めても、心を動かせなかった私を、
どうすることも出来ず、『ただ』見に来ただけなのだ。

だから、彼はこうして泣き腫らした目で、私を遠く見つめていることしかできないのだ。

あの人の涙は今、私のために流されている。


彼を見つめていると、私の目からも涙がこぼれた。
一粒だけ頬をつたって、そして地面に落ちた。

やっぱり私は大バカだ。

こんな間際にならないと気付けない。

これほど私を想って泣いてくれる人を、どうして簡単に遠ざけてきたのだろう。
どうして素直に受け入れられなかったのだろう。

あの人の涙を拭いてあげられるのは、世界中で私ひとりなのに。

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