秘密が始まっちゃいました。
「ですね、そんなの映画の中の話です」


「それより、おまえ、お見合いはどうしたんだよ」


「相手の顔を見る前にごめんなさいしてきました。だから、荒神さんが乱入しなくても、私、立場ないんです。この後、紹介してくれたおばちゃんにも、先方にも、全力でお詫びしなきゃならいないんです」


そう言って、私はへらっと笑った。荒神さんはまだ信じられないという表情だ。


「いいのかよ、そんな……。せっかく真面目なエリートと知り合うチャンスを……」


「荒神さんはいいんですか?私が大企業エリートのお嫁さんになっても」


私の問いに荒神さんがキッと眼に力を込めた。赤い目で真剣な顔されても、迫力がない。


「いいわけないだろ!」


その瞳から新たな涙がぽろんと落っこちた。次から次へと落ちていく涙。
今この場も、この人はずっと泣くのを我慢していたのだ。


「おまえが他の男と結婚したら……泣きすぎて死ぬ!」


荒神さんはポロポロ泣きながら、悔しそうに言い切った。

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