秘密が始まっちゃいました。
「追いかけてきてくれてありがとうございます」


私は深々と頭を下げた。
今までの気持ちを全部こめたお礼。

言い合いも喧嘩もたくさんした。
きっと、この人といたらそんなことばかりだ。

でもいいや。
好きになっちゃったんだもん。
そういうことも全部ひっくるめて、荒神薫という人を受け入れる。


私は汚れた草履で一歩踏み出した。
駆け出し、勢いに乗ってそのまま荒神さんに抱きついた。

荒神さんの首に飛びつくように腕を回したけれど、彼はきちんと抱きとめてくれた。


「日冴、本当にいいのか?俺、おまえの望むようなヤツじゃないかもしれない」


荒神さんが弱々しく問う。涙と困惑で声が震えていた。


「お互い様です。私は融通が利かなくて真面目すぎるし、荒神さんは適当で腹黒。
何より、荒神さん、泣き虫だから。私がいないと涙の海で溺れちゃうでしょう」


抱き上げられる格好で、私は間近く荒神さんの顔を覗き込んだ。
彼の瞳から次々にこぼれる涙を親指の腹で拭い去る。
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