秘密が始まっちゃいました。
羽田さつきが大きな瞳を細めて、微笑んだ。
そんな偶然あるか。何時間待ったんだ、この女。

背筋を寒くしながら、角は答える。


「お疲れ様。それじゃ……」


「あ!待ってください!帰り道、ご一緒しませんか?駅も一緒ですし」


嫌だ。
反射的に言いそうになる。
しかし、自分も子どもじゃない。悪戯に後輩の女子を傷つけるのは躊躇われた。

言葉を選んでいるうちに思わぬ問いが角の口から漏れた。


「あのさ、羽田は……俺のこと、好きなわけ?」


羽田さつきのばっちりメイクの顔が、夜目にわかるほどボッと赤くなる。

一方で当の角は狼狽していた。

バカか、俺は。
何、ストレートに聞いてんだ。
どんな答えが返ってきても、きちんと返事できる気がしない。


「……ハイ、角さんのことが好きです」


羽田さつきが真っ赤な顔で、ささやくように答えた。
さすがに告白だけあって、いつも強気な彼女が珍しく照れている。

角はその表情を否定するように言葉を重ねた。


「それって、荒神さんの替わりだろ?」
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