秘密が始まっちゃいました。
「私が受注ミスして納期に間に合わないLED、すぐに都合をつけてくれたじゃないですか」


ああ、そんなこと?
角は思い出す。
でも、LED特販部にいたらそれは仕事の範疇だ。当然のことだ。
彼女とのやりとりも全部メールだったし。


「角さんには当たり前のことでも、私は本当に助かったんです。あと、メールの最後に『気にすんな。またいつでも頼ってくれ』ってあったでしょう?アレがすごく嬉しかった。好きになる理由として、おかしいですか?」


早稲田通りからの繁華街の灯りを背に受け、羽田さつきの表情は逆光の中だ。
それでも、彼女の瞳が意思的で、伊達や酔狂で言っているわけじゃないことは伝わってくる。

次に、その表情がふわっと崩れた。
困ったような笑顔に変わる。


「なんて……、私、人と感覚が違うみたいなので、実際は恋の理由としてはおかしな話かもしれませんね。自分では普通にしてるつもりなんですけど、今までずっと言われ続けてきました。『羽田は変わってる』って。大学の時、好きだった人には面と向かって言われました。『オマエ、頭がおかしい』って」


確かに彼女はちょっとおかしい。
常軌を逸したところがあるのは事実だ。

しかし、弁当は遠慮すれば引っ込め、誘いは断れば大人しく引き下がる。土日に偶然(?)会っても、挨拶だけで去っていく。
押しは強いが、けして自分の都合を丸々押し付けているわけじゃない。
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