秘密が始まっちゃいました。
驚いたのは羽田さつきの方だったようだ。
まさかすんなり受け取ってもらえるとは思わなかったのだろう。


「アリガト、弁当箱、洗って返すわ」


「……いえ、お気になさらずに」


羽田の照れたようなモジモジした態度が、少しだけ可愛いと思ってしまうのは昨夜の一件からだろうか。

角は一晩考えたことを、ついに口にした。


「あのさ、弁当の礼。今夜、メシでもどう?」


声は震えていなかっただろうか。
自分でも驚くべき緊張感。
まるで初めて女子をデートに誘った中学生みたいだ。

ただのお礼で、後輩を誘うだけ。他意はない。
そうだ、気張ることはないんだ。

心中言い訳をしつつ、角は彼女を見つめる。

バラ色の頬をした羽田さつきが、ぽってりとした唇を開いた。


「あ、今夜は先約があるので」

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