秘密が始まっちゃいました。
荒神さんの部屋に着き、リビングに入る。
間を作りたくなくて、私はジャケットを脱ぎ、バッグを置くとキッチンに向かった。


「コーヒー淹れますね」


「あ、メーカーの使い方わかるか?」


「映画見た時、何度か私が淹れたじゃないですか。任せてくださいよ」


明るく屈託なく、緊張感を微塵も見せず答える私。立ち働いておきたいのは、まだ心の準備が出来ていないから。
コーヒーを淹れ終えるまで、私はリビングには戻らず、対面キッチンの向こうでニコニコしていた。

うう、不自然かな。

荒神さんは「コイツ、また避けてんな」という呆れた表情。


「日冴、コーヒーは俺が運ぶからこっち来てな」


「だっ、大丈夫ですよ!」


全然大丈夫じゃない過剰な反応をしてしまう。ついに荒神さんが笑いだした。


「おまえなぁ!」


爆笑しながらやってきた荒神さんが、やおら私をキッチンで抱き締めた。
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