秘密が始まっちゃいました。
たぶん、彼のたゆまぬ努力は成功しているのだろう。

私だって、まさか彼が涙腺ゆるゆる男子だとは思いもよらなかった。
実際見ても、話を聞いても、まだ信じられないくらい。

当の荒神さんは、若かりし日を思い出しているのか、手のひらを見つめ続ける。


「彼女ができるといつも大変だった。映画、舞台は一切行かず、一緒にテレビを見ている時に悲しいムードを感じ取ったら「くだらねぇ」とか言ってチャンネルを替えてきた。別れ話は絶対直接やらない。薄情だろうがなんだろうが、別れ際に泣く男なんて女々しすぎるだろう?振る時も振られる時も、メールか電話で済ませた。
そうやって長いこと秘密を守ってきたんだよ、俺は。幸い黙ってりゃモテるし、今まで付き合った女にはひとりもバレなかった」


「それは……ご苦労が多かったことかと……」


じゃあ、もしかして荒神さんの秘密がバレた人間って、私が初?
なんだか、それに関してはちょっと特別な気分。
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