秘密が始まっちゃいました。
私の妙なドキドキに気付くことなく、荒神さんがばっと顔を上げた。


「俺としても、このままじゃいけないとは思ってるんだ。去年、ちょっと事件もあったし」


「事件ですか?」


「妹の結婚式があったんだよ」


荒神さんはその事件を思い出したのか、額に右手を当てた。
どうもイタタな話らしい。


「俺、結婚式もダメなんだ。新婦の父親とかにもらい泣きしちまって。あげく妹の式だろ?妹がウェディングドレス着てるだけで、涙が止まらなくなって……」


「どうしたんですか?」


「式の間、二時間。ずっと喫煙ルームにいた」


「ああ……」


やっちまいましたね。それは。
私は目を細め、哀れな同僚を見つめる。


「それは……悲しんだんじゃないですか?妹さん」


「悲しんだどころじゃない。めちゃくちゃキレられた。兄なのにどうして妹の式を中座しっぱなしなんだって。でも、泣きそうだったとは言えなくて……。
結局あの日以来、妹は口をきいてくれない。きっと、この冬に産まれる甥っ子にも会わせてもらえないんだろうな」
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