秘密が始まっちゃいました。
その後、『アダージョ』という映画を見た私たち。
イタリアの恋人たちの悲しい別れ……という内容の映画だ。

案の定、途中から横で鼻をすする音が聞こえ始めた。
まだ中盤ですけど……。私はちらんと横を見る。

暗い館内でも、スクリーンの光で荒神さんの顔はよく見えた。
食い入るようにスクリーンを見つめる彼。
涙がその頬を伝っている。


荒神さんの透明な涙はやっぱり綺麗。
私は映画じゃなくて、しばし彼に魅入る。
こうして彼の涙を見るのも三度目だけど、なんでこんなに魅力的なんだろう。現実感が薄いからかな。
私は自分の心のざわめきの正体がわからない。


映画の二人はくっついたり離れたりを繰り返しながら、最終的には死別という割とあるあるな展開で終わった。

エンドロールが流れる中、客が立ち上がり始める。
今日は平日夜ということもあり、客席は半分少々埋まった程度だった。

念のため、端の席にしてよかった。

荒神さん、ボロッボロに泣いてるんだもん。
しゃくりあげたり、声を出すのは必死に耐えているんだけど、中盤から泣きっぱなしだった。
< 76 / 354 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop