1ページ〜春〜
「あー、楽しみだねー。
実莉と一緒のクラスかなー?
イケメンいないかなー。」
「…そうだね。」
ウキウキとした梨華の言葉に私は小さめの声で応える。
「なに?そのテンション低い感じ。」
別にテンションが低いわけではなく、梨華のテンションが高過ぎるのが1つめ理由で、もう1つめの理由は、この制服の着崩しに慣れていなく、少し違和感があり、他の人から見たらどんな風に映るのか不安だったから。
と言っても、私が気にする程周りが私を見てるとは思っているわけでもなく、ただ、軽そうとか、背伸びし過ぎに映っていたくなかっただけ。
「大丈夫だって!
実莉はすごく可愛いから!
制服もさっきより全然高校生らしいよ!」
外されたボタンを気にして、ブラウスの胸のあたりを触る私に気付いた梨華が、なんの屈託のない笑みで、どこからそんな自信が出てるのかわからないほど、はっきりと応えた。
「梨華はいいよ!
大人っぽいし、細いから制服すごく似合ってるし、髪も巻いてるし、なんか化粧とかもしてるしさー。
…胸は全然ないけどさー。
…でもさ…私なんて…」
…胸は全然ないけどさー。
その言葉に梨華の目が細くなり、横目で私を一瞬睨んだ。
中学生の成長期に梨華の身体は背だけが伸び、逆に私の身体は胸だけが大きくなった。
その頃から、たまにこうして梨華をからかう。
私はいつものようにこーっと笑ってごまかした。
「でか乳!一言多いよ!
ちょっとこっちきて!」
最寄りの駅に着くと、梨華が私の手を引っ張って、ホームのベンチに誘導する。
2人でベンチに腰をかけると、梨華が自分の鞄から小さな化粧ポーチを取り出した。
「目、つむってて。」
少し不安に思いながら言われるがまま目をつむると、梨華の手が頬や顎にあたり、たまにくすぐったく感じる。
もう逃げられない。
まな板の上の鯉状態で梨華にされるがまま…。
「はい出来た!
目開けていいよ。」
梨華の許しが出て、そっと瞳を開けると、梨華が鏡を差し出して私の顔を覗き込んでいた。