EXCAS
 どうしてか、彼らをもう一度顧みた。
 歩みを止める事なく、普段ならば走り去ってしまいそうなのに。
 完全に立ち止まって、二人の恋人達を眺めた。

 近付いて行く二つの影が、柔らかな唇同士が触れ合った。
 互いが欲しいという純粋な衝動、原初の感動、恥じと感じていた亮太は過去の事。
 今、この状況であるならば理解できる。
 戦争をしているから、命の奪い合いをしているから。
 命の育みを、求め合うという事は尊い事で。
 決して、恥ずかしいなんて言葉で貶してはいけないと。

 理解はしても、恥らう本能は抑えられず。
 無粋にならないよう、頬を染めながら振り返らずに走っていく。

 シリウスは正規の軍に配属されている駆逐艦だ。
 ただしカスタマイズされて、外見とは異なり性能は巡洋艦と変わらない。故に中身は駆逐艦ではあるが、人っ子一人いない。
 外で皆作戦会議を行っているため。
 この船の中から、たった一人を探し出すという。
「無理があるだろ、それ」
 勘がいい方だとは思えない、その点に関しては平均的な亮太。
 気になるとは言ったが、平均並みの予感では信用ならない。本人でさえ理解しているだろう、なのに何故。
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