EXCAS
「……ショウ、くん? ああ、生きていたんだっけ。もう、動けるんだ」
「なんとかね。随分、沈んでいるんだな。
 部屋も、こんなに暗くして。目を悪くする」
「心配、してくれるんだ? でも、余計だよ。
 もう、そんなの、いらないよ……」
「何がいらないものか。人を心配するのは大事だからだ。友達として放ってはおけない」
「ぅん、わかるよ。優しい友達、だから心配する。
 でも、一番心配してほしい人がもう、いないんだよ」
「そうだな。ランサーは、もう、いない。
 君の彼氏は、恋人は、戦場で亡くなった」
「もういい。もういいでしょ。
 誰かを、大切な人を失うのは、もういい。
 私、疲れた」

 近付き、枕に顔を埋める詩絵瑠がいた。
 すべてを拒絶し、受け入れる事を怖れた、悲しい幼子のような。
 昔、両親を亡くした時も、きっとこうだったんだろう。大切な誰かを失って、そうなるくらいなら誰とも関わりたくないと、すべてを拒絶する姿勢。
 何て悲しくて、寂しくて、哀れなほどに何もわかっていないのだろう。
 彼女を見ていると、だんだんと思い出す。
 同じように拒絶して、同じように悲しんで、同じようにわかっていなかった馬鹿を。
 酷く似すぎて、同じ結末を辿ってしまいそうで。怖かった。

 だが、いや、だからこそ。
 俺は覚悟してここに来たのではなかったか。

 詩絵瑠の闇に踏み入る。
 これは深く関わろうとする者をやんわりと跳ね返し、当人をいつまでも縛り付ける牢獄。最悪、死へと意識を傾けさせる悪夢の檻。

 今、そこから救い出してやろう。
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